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目が遠くなる              [近藤 武]


 昭和39年、1964 年 東京オリンピックを前にして当時先端技術のマイクロ印刷を使った、縦横数センチかのスポーツの豆ルール集なるものがあった。 どこで手に入れたか、それを小学三年生の少年は、貪るように読んだ。 サッカーのコートは何メートル、重量挙げの体重クラス分けはどう。 

 少年はアリの巣を見ているのが好きで、当時 舗装の代わりに土の上に敷かれていた長方形のコンクリートの端から吹き出す、今でいえば顆粒の だしの素 の様な土粒に囲まれた アリの巣 を何時間も観察していた。 1 mm の中が軽く幾つかに分けられる分解能の視覚を、持っていた。

 そしてまた。 視力の検査は 2.0 をもって限界とする。 少年はこれに不満だった。 もっと下は無いのか? 遠視気味ですね、と言われた。 これが四十代になり突如、老眼に襲われる。 

       遠くまで見えた者から、目は遠くなる。


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