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いいにおい             [近藤 武]


 浅草から上野にかけて歩いている時に、えも言われぬ よいにおい に心を動かされた。 近くに行ってみれば、それは昆布問屋の大量に置かれている昆布の山だった。 それから、わかめちゃん の袋をまるでシンナー遊びのようにふくらましては吸った。 心の芯に沁みるような、いいにおいなのだ。

 古典的には シャネルの五番。 バブルを経験した者なら、カルバンクラインのワンなどを思うだろうか。 いにおい とは、これまた非常に個人マターなのだと思う。 しかし、昆布 わかめの、あの芳香。 旬のピーマンを切った時の匂い。 冷やしたトマトを等分する時の、匂い。 ベイリーブスやバジル、胡椒の匂い。 しんとした森の匂い、朝の高原の匂い。 昭和三十年代の農家の土間に入った途端に襲ってきた、わらベースのえも言われぬよい匂い。 木材を切り刻む製材所の匂い、精米所の匂い。 これこそが、いい匂いなのではないのか。



追記:
八十年代の輸入盤レコードを開けた時の匂い、七十年代 スッコチのオープンリールテープを開けた時の匂い。 


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